Media Room

08/05/2001

[Colon: 現地就職について]

世界に進出する日本の企業の最前線で活躍する米国駐在員。日本企業の活動を支えてきた彼ら国際派サラリーマンの苦労も様々である。海外暮らしのストレスや子供の教育問題。経営の再編、統合と変化する本社に対する不安。駐在員の約8割が帰任前に現地での就職を考えるという。今回は、駐在員として米国赴任後、米企業に転職し成功した例を挙げる。 ケース1: A氏(38歳) 経歴: 地元九州の大学を'87年に卒業後、商品先物取引業大手に個人営業社員として入社。翌年東京の国際部に転勤となり、東南アジアを中心とした海外法人営業を担当する。’89年から一年間シカゴにある米系ブローカーでの研修を経た後、’94年にニューヨークの現地法人勤務となる。 転職のきっかけ: NYのビジネスが起動に乗り出した頃に帰任が決まったが、成果を出せるまでどうしてもアメリカに残りたかった。以前から個人の評価方法が年功序列で固まっている日本の体制に不満を持っていた。いくら成果を上げても適切に評価されない今の会社より、実力主義のアメリカで仕事をしたいと思い転職を決意する。’98年夏に帰任命令が出て一旦日本に帰国したが、その間にも就職活動を続けた結果、最終的にシカゴの取引先で採用されることが決まった。’99年3月に退職し、同年5月にシカゴに移り勤務を開始する。 転職後してよかったと思うこと: 自分の能力を会社に認めてもらえるようになり、仕事の成果が給与の増減としてあらわれるようになった。 転職後苦労したこと: 仕事の成果が会社に認められるようになり嬉しかった半面、初年度は年俸制だった給与が翌年からフルコミッションになった。固定客を獲得するまでコミッションがゼロ、経費を差し引くとマイナスの月もあり苦しい思いをした。まず、コミッション収入を初年度の年収と同額にするという目標を立てた。その結果、一年で目標を達成し、2年目はそれを上回った。今では年俸時代の一ヶ月分を一日で稼ぐこともあるが、ミスをした場合もそれがそのまま自分の給与に響く。まさに経営者と同じである。気を抜くことができない。 今後転職を考えている人たちへのアドバイス: 自分の場合は、何をしたいのかを良く考え、最終的な目標を設定した。そしてその目標を達成するために何をするべきかを逆算し計画を立てた。アメリカで生活するに当たり、まず、就労に必要不可欠であるビザ取得手段から検討を始めた。転職を考えた当時、結婚して最初の子供が産まれる時期であり、他人からは、普通は守りに入る時期に何故転職を?とよく尋ねられたが、それは夢に飛び込む勇気ない人間の言い訳だと思った。帰任して東京近郊の小さなアパートに住み細々と暮らしていくことを考えると、逆に家族のために多少のリスクを負ってでもアメリカでの生活の方が人間らしくできると考え、そのためにもアメリカの会社への転職が適していた。アメリカの企業では努力しないとすぐに切られるが、努力が報われる事も多い。自分のキャリアアップの為にも転職して良かったと思う。しかしながら、日系企業から米企業に移って楽になれることは決して無い。アメリカでは過程よりも結果を出すことが重要である。 ケース2 B氏(51歳) 経歴: 関西の大学を卒業後貿易会社に就職。その後‘73年から5年間、‘83年か13年間とニューヨーク駐在を2回経験、2回目の駐在期間が終了する際に転職を決意した。 転職のきっかけ: 日本に帰国して一年後あたりにシンガポール赴任の見込みが強く、生活が落ち着かなくなることを考えると戸惑った。アメリカの生活が長い家族のためにも、と現地に残ることを決めたが、転職した一番の理由は「アメリカが大好きだった」から。 転職の直接のきっかけは、帰任の為挨拶に行った最大の取引先米企業から「残って欲しい」との声があった。B氏が勤務する会社の大阪本社に辞令を取り下げるようと取引先から直接の働きかけまであったが会社側は譲らず。それを知った取引先が逆にB氏を採用すべくアプローチを始めた。先方から提示されたオファーが駐在時のものと大差がなかったこともあり、転職を決意しマサチューセッツ州に転居。当初 W-2 での年収は駐在時代と変わらなかったが、手当てとして支給される部分の多かった駐在員時代と比べると生活レベルは上がった。 転職後してよかったと思うこと: 社内に日本人がいないので気を遣わないで済む。上下関係にこだわらない社風が自由で良い。 また、実力主義なので実績をあげれば評価される。 転職後苦労したこと: プレッシャーを感じない性格なので、苦労を感じたことはない。 今後転職を考えている人たちへのアドバイス: 転職する前に準備、解決しなければならない最も大事なことの一つとして、「ビザ取得戦略」が挙げられる。外国人の採用に慣れていない米企業は、ビザスポンサーに対する知識が浅いので、自分で戦略を立てることが大切。自分の場合、駐在時はEビザを持っていたが、家族の分も含め、更新の手続きが面倒であるということを理由に永住権を申請、取得した。現地で転職しようと思ってもビザのステータスがしっかりしていないとアメリカの企業に就職できないことを考えると、永住権を取得しておいて非常に良かった。 ケース3 C氏(45歳) 経歴: 大学を卒業後地元の銀行に就職。支店勤務を経て国際部に転属。‘92年にニューヨーク支店に赴任となり約6年駐在員として活躍する。 転職のきっかけ: 勤務していた銀行が‘98年に支店から駐在員事務所になることが決まり、帰任が内定した。帰国しても、今後銀行内での国際部門の位置付けを考えると新たな展開は望めなかった。また、後ろ向きの発想になっていく日本の金融業界に戻るのもおもしろくなかった。他人の敷いたレールを歩くのではなく、自己実現したいと思っていたところに、当時不動産融資を担当していた関係で付き合いのあった米系大手企業より声がかかった。家族の理解もあり、転職を決めた。 転職後してよかったと思うこと: ストレスや危機感とはうらはらに充実感がある。競争の激しい米社会で、実力のある人間と一緒に組んで仕事をするのは刺激的である。試行錯誤し、自分なりのやり方を見つけて仕事を進めて行った結果、それが認められて今の地位を築くことができた。 転職後苦労したこと: 今思えば、日系企業の駐在員という立場、考え方は生温かった。企業文化の違うアメリカの会社で、日本的物の進め方は役に立たない。当初は戸惑うことが多かったか、転職のきっかけになった人間が同じ部署にいて「1―2年は種まきをしろ」、と言われ、種が芽になるようにと地道に努力した。足をすくおうとする人間も確かにいるが、職場で良いパートナーに恵まれたことは大きかった。 今後転職を考えている人たちへのアドバイス: 目立ちすぎると嫌われる傾向にある日本企業とは異なり、アメリカでは自分が他人とどう違うかをアピールしないと認められない。自分を差別化する必要がある。将来伸ばしたい方向を考えていくと常に勉強が必要である。例えば、自分の場合は不動産に関して法律面でもサポートできるように弁護士の資格を取得した。叱咤激励して前を向いて行かないと転職してもその後が大変である。努力を怠らないことが大切だと思う。