Media Room

11/05/2001

[Colon:採用の流れ]

今回は、米国で就職活動をする求職者の方々へ参考資料として、日米を比較した人事 採用の流れを採用企業側の立場より述べる。 採用理念の違い 日系企業がアメリカで人材を採用し有効に生かしていくために、法律面や運用面で注 意しなければいけないことが多々ある。まず、日本とアメリカでは採用に関する慣習 が異なる。アメリカでは雇用者と従業員は任意の雇用関係(Employment-at-Will)に 基づいており雇用者はいつでも従業員を解雇することができ、従業員はいつでも辞め ることができるという大前提がある。ただし、この雇用理念には主に以下の二つの例 外がある。 *公民権法第VII章(Title VII, Civil Rights Act of 1964)や身体障害者保護法 (The Americans with Disabilities Act )などにより、雇用者が被用者(従業員) の人種、宗教、性別、皮膚の色、年齢、出身国または障害による、雇用上の差別をす ることを禁止。 *従業員が法律上認められた正当な権利を行使したことに対する報復として、雇用者 が従業員に対して不利益な取り扱いをすることを禁止。 一方日本の雇用に関する慣習は終身雇用(Lifetime Employment)基づいており、昇格 などは年功序列に従い、採用は新卒の定期採用が中心となっている。しかしここ数年 は、通年採用の理念を取り入れ、優秀な人材を、年間を通じて採用するという企業も 少しずつ出てきている。 日本での新卒採用の流れ 日本では優秀な新卒を採用するために1年間の計画が立てられる。 1. 採用人数とその人物像に関する賛同を得る *社員の年齢構成の比率を検討 *定年や中途退職者に伴う欠員の検討 *事業計画に沿った必要人数の割り出し 2. 採用に向けて社内体制整備 *採用活動開始から入社までのスケジュールを組む *採用にかかわる人員を把握 3. 広報手段の検討 *求人票を高校、専門学校、大学などに送付し、求人を告知 *求人情報誌へ広告を掲載 *会社案内を作成 4. 会社説明会、業界セミナー運営 *案内状を作成、送付 *参加希望者を確認 5. 採用担当者の養成 *学生にどのように対応するかのトレーニング *応募者に伝える経営人事方針の確認 6. 選考方法を具体化 *説明会への参加姿勢から、応募動機の強さ、企業研究の深さなどを測る *試験や面接の内容と運営方法を改善  *選考後、内定を通知 7. 内定者研修(入社前) *他社への就職活動の防止、会社への帰属意識を醸成 *会社の雰囲気を感じさせ、不安解消のため会社見学やアルバイトをさせる *社会人としてのマナーなどの基本事項を教育 *他の内定者との同期意識の醸成 アメリカでの採用活動の流れ アメリカでは学校卒業が同時期ではなく、また任意雇用の前提があるため、ポジショ ンの発生時に募集をするのが一般的。しかし大手の米系企業では、年間を通じて大学 と連絡を取り、ジョブフェア(合同就職説明会)への参加などにより優秀な新卒の採 用活動を行っている。アメリカでの採用活動の主な流れは以下の通りである。 1. ポジションの仕事内容を的確に表したジョブ・ディスクリプションの作成または 修正 2. そのポジションで人を採用するための社内用要請書を作成 3. 候補者を見つけるための方法を考慮 4. 必要であれば募集広告を出す 5. 電話でのスクリーニングを実施 6. 面接、筆記試験など適切なテストの実施 7. レファレンス・チェック(過去の雇用者などに照会を依頼) アメリカにおける人事募集方法 募集方法を大別すると、直接募集と間接募集がある。直接募集は多くの米系企業が 行っている方法。各人材を募集している企業が、自ら募集広告を新聞や大学の就職課 に出して募集する。一方間接募集は、企業が人材斡旋会社やエグゼクティブ・サーチ 会社に依頼する方法。多くの日系企業は、この間接募集の形を取っている。その理由 は、新聞などに募集広告を出すと電話対応に追われ、日常の業務が止まってしまう可 能性があるためである。また、面接以前に人材斡旋会社での第一選考がなされてお り、ある程度人材の質がそろっていることや、直接募集のように採用の断り方を間違 えて、訴えられる危険性がないことなどが挙げられる。 企業に合った人材を獲得するために、アメリカでは次のような方法を利用している。 従業員からの紹介(Employee Referrals)会社の社員に募集しているポジションに合っ た人の紹介を促す。企業によっては採用が決まると小額のボーナス(Referral Bonuses)を払うところもある。社内からの昇進・昇格(Promotion from within)会社 内に昇進・昇格のポリシーがあるということが従業員のモラルを向上することにな る。大学のインターンやパートタイムが正社員(Full-time Regular Employee)となる 場合もある。掲示板(Bulletin Boards) 会社内での掲示板、Eメールなどにより、多 くの従業員にポジションがあることを知らせて応募させる。内容はポジションのタイ トル、部署、必要な技能、能力、ジョブ・ディスクリプション、部の責任者名や応募 方法など。人材募集広告(Help-wanted Advertisements)新聞の求人欄に広告を出す。 大学の紹介(College Recruiting)常に数カ所の大学内キャリアセンターの担当者と連 絡を取り、紹介を依頼する。人材斡旋会社(Employment Agency)の利用人材斡旋会社 との頻繁なコミュニケーションを図り、適切な人材紹介を依頼。迅速な人材募集方 法。 法律の運用と解釈 アメリカの雇用形態である任意雇用は、前述のように連邦制定法律により制限されて いる。これは雇用者が従業員に対し、雇用条件において差別的取り扱いをすることを 防止するためである。しかしながら、例えば勤務年数や能力により雇用条件に差をつ けることは許されており、法の下では禁止されていない。つまりアメリカでは、能力 のある人とない人を同等に扱うことが不公平であるととらえる。 公民権法第VII章の 適用除外となる例を以下に列挙する。 1、職業上の資格要件を満たす(Bona Fide Occupational Qualification : BFOQ) 性 別、宗教、出身国に関しては、例えば男性用衣服のモデルとして男性だけを募集する など、もしこれらの特性が特定の業務遂行に必要となることが証明されれば、扱いを 異にすることが認められる。 2、事業上の必要性を満たす(Business Necessity) 事業の遂行上、特定の改策や慣行 が必要である場合。ただし雇用者はその改策や雇用慣行が当該職務に関連し、事業上 の必要性に一致していることを証明できることが条件とされる。 3、年功制度・能力主義制度、出来高報酬制度(Seniority, Merit, Incentive System) 雇用条件について異なる基準を設ける際、その基準や勤務場所の差が、従業 員の宗教、性別、皮膚の色、人種または出身国に基づく意図的な差別でない限り許さ れる。 以上の事項により、企業は人材採用の際に、まず、最初に採用する従業員タ イプ決めることが重要となる。(Sample A参照) [* Full-time Regular Employee (正社員)・・・数年前までPermanent Employee と呼ばれていたが、任意雇用(Employment-at- Will)の原則に反し、パーマネントと いう雇用形態は皆無であり、労働訴訟の生じたことから現在は使用されていない。] [** Employee During Orientation Period (試用期間中の社員)・・・試用期間の ことを数年前まではProbationary Periodと呼んでいたが、現在ではIntroductory Period, Trial Periodもしくは Orientation Periodと呼んでいる。Probationaryは ネガティブなイメージが強く、従業員を解雇する前の監察期間などに用いられてい る。]